世界で最も希少で高価な繊維:ビクーニャ(ビキューナ)の魅力と実際
南米アンデス山脈の高地に生息する野生動物「ビクーニャ(ビキューナ)」は、その繊細で柔らかな毛が「繊維の宝石」と称され、世界中の高級メゾンやこだわりのブランドから注目を集めています。

ビクーニャはペルーやボリビアなどのアンデス地域に生息し、ワシントン条約で保護される極めて希少な動物。そのため、採取できる繊維の量はごくわずかです。
1頭から年に一度、約120〜150グラムしか採れないため、ビクーニャ製品は非常に高価です。
以前、南米ラクダ科動物(アルパカ、リャマ、ビクーニャ、グアナコ)4種のまとめで、動物についてまとめていますが、
今回は、繊維や糸、生地の価格の目安や仕入れる方法などをご紹介します。


ちなみに、10年以上ペルーとものづくりをしてきた中で、ビクーニャを見たり、刈られた(梳かれた)毛を触らせてもらったり、現地の作り手や工場から営業を受けたりしたことはありますが、主に価格面でのハードルから、実際の商品としての取り扱いは自社ではしたことがありません。
10年前は、ペルー現地のお店では鍵のついたショーケースに入っていて触ることもできませんでした。
最近では触らせてくれるところもあります。
値段感
あくまで数社の参考価格になります。
① ビクーニャ繊維(未紡績、綿の状態)
ビクーニャの毛を刈り取ったままの状態である未紡績繊維は、加工前の最もナチュラルな状態です。
参考価格:1kgあたり 約1,800ドル
② ビクーニャ糸(100%ビクーニャ繊維使用)
繊維を紡績して糸にしたものは、手作業によるものと工業用の2種類があり、それぞれに特長があります。
◉ ハンドメイド糸
熟練職人の手で紡がれた糸は、工業糸に比べて太さのばらつきがある一方、ナチュラルで温もりのある風合いが魅力です。
- 価格の目安:1kgあたり 約4,500ドル
◉ 工業用糸
機械によって均一に仕上げられた糸は、上質で滑らかな仕上がり。アパレル製品やインテリア素材としても活躍します。
- 天然色(キャメルブラウン):1kgあたり 約4,000ドル
- 黒色など染色:1kgあたり 約4,500ドル
(参考 アルパカの場合1kg 約40~65ドル)
※価格は、一部の例です。また、市場状況により変動する可能性があります。
本物の贅沢と倫理的価値を両立する素材
ビクーニャは、野生動物保護の国際的ルールのもと、地元のコミュニティによる管理された環境で繊維が採取されています。高価である理由は、その希少性と持続可能な背景、そして驚異的な肌触りにあります。
ビクーニャ素材の製品の実績があるブランド例を以下にご紹介します。
SCABAL(スキャバル)
1938年にベルギーのオットー・ヘルツによって創立された名門の生地専門商社。ビクーニャ100%のジャケット生地を取り扱い、チェック柄やヘリンボーンといった多彩なバリエーションを提供。
ZEGNA(ゼニア)
「神の繊維」と称されるビクーニャを使ったスーツやコート、ストールを展開するイタリアンファッションの名門ブランド。
Loro Piana(ロロ・ピアーナ)
ビクーニャとカシミヤを組み合わせた極上アウターやニット、スカーフなどを展開。価格は数千~数万ドル規模で、特にパーカーやジャケットは2万ドル超え商品も。セーターで70万円以上。
Brioni(ブリオーニ)
ビクーニャ使用のジャケットやセーターを展開。ポロ約5,900ドル、ジャケットは2万ドル以上など超高級路線。
輸入・販売に必要なライセンスと規制
ビクーニャ素材はワシントン条約(CITES)および「ビクーニャ条約」により厳格に管理されています。
輸入〜販売までのステップ
- 1. 輸出国で製品を購入・採取
- 2. 輸出国のCITES管理当局にて輸出許可・証明書取得
- 3. 日本で輸入者が事前確認(必要なら)または通関時確認を準備
- 4. 製品輸入・通関申告(税関でCITES許可証及び原産国証明提示)
- 5. 必要時、経済産業省(貿易管理部)へ輸入承認申請
- 6. 輸入後、自然環境研究センターへ登録申請+登録票取得
- 7. 登録票を添付して商品販売・広告
- 8. 譲渡や情報変更・販売終了後などの届出・返納手続きを実施
輸入・販売にあたっての必要手続き(日本)
- CITES輸入許可・証明書
- ビクーニャはワシントン条約で付属書IまたはIIに記載されており、国内輸入には有効なCITES許可が必要です。
- 登録・証明書の付帯
- 各種商品には、(一財)自然環境研究センターなどによるCITES登録番号や原産国証明が添付されている必要があります 。
*CITES(サイテス)とは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約の略称で、正式には次のように呼ばれます:Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(=絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)
- 各種商品には、(一財)自然環境研究センターなどによるCITES登録番号や原産国証明が添付されている必要があります 。
なぜビクーニャにCITESが必要なの?
- ビクーニャはかつて乱獲や密猟で個体数が激減した歴史があります。その保護活動には、かつてイオンも貢献しました。
- そのため、合法な毛刈りと保護を両立する「チャク(Chaku)制度」などの持続可能な方法が導入されており、国際取引をCITESで厳格にコントロールしています。
CITES輸入手続きの流れ
1. 輸出国でのCITES輸出許可取得
- 輸出国(例:ペルー、ボリビア)のCITES管理当局が、正規の採取・加工プロセスに基づき、輸出許可書(Export Permit)または再輸出証明書(Re-export Certificate)を発行します。
2. 日本での輸入承認 or 事前確認
- 通常は「通関時確認」で輸入可能ですが、条件によっては事前確認書が必要です。
3. 関税法に基づく輸入申告
- 日本税関にCITES許可書(原本)と原産国証明と共に輸入申告を行い、通関時にCITES証明書の確認を受けます。
4. 種の保存法に基づく管理
- 輸入された製品は、一般財団法人自然環境研究センターへの登録申請と登録票の取得が必要です。
- 登録票は商品(個体)ごとに発行され、30日以内の登録申請・譲受届出・情報変更・返納義務などが課せられます。
5. 販売にあたっての表示義務
- 「国際希少野生動植物種登録票」を販売や陳列時に添付表示し、広告にも登録記号番号・登録日・有効期限の記載が必要です。
ビクーニャ製品の輸入・販売は少しハードルが高いですが、きちんと手順を踏めば大丈夫なはずです。
と言いつつ、私たちも実際にはやったことがありませんが・・・。